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最近のブラックホールの情報喪失問題に関する動画について、何人かの方から批判的なコメントをいただきましてん。情報喪失問題について、自分で自分の首を絞めてもうたみたいですわ。でも、まだマイクの準備もできてますし、せっかくやから使わせてもらいましょか。コーヒーでも飲みながら、サボってる振りして話を聞いてもらえませんか。
まず、こんなコメントをいただきましてん。「唯一の批判は『何の役にも立たへん』というコメントについてです。一見役立たへんように見える事実が、有用なアイデアの源になることは数え切れんほどありますよ」まあ、その通りですな。
返事の前に、動画の内容を簡単におさらいさせてもらいますわ。私自身も途中で迷子になってもうたんで。ブラックホールの情報パラドックスを解決しても、自然についての新しい知見は得られへんって言うたんです。ちょっときつい言い方やったかもしれませんが、これは仮説の話やなくて、このパラドックスは既に何度も解決されてるのに、自然についての新しい発見には繋がってないんです。
この動画は、ブラックホールが放射する際に情報が漏れ出るという最近の論文についての簡単な報告でした。つまり、この問題はまた解決されたわけです。今回は何十年も知り合いの二人の研究者によってですな。ヘイ、ザビエル、スティーブ、もし聞いてはったら、ええ仕事してくれはりましたな。この話題については、以前にもっと長い動画で何度か話させてもらってます。
で、ここが問題なんですけど、説明が不十分やったんです。完全な話はこうです。ブラックホールの情報喪失問題は、数学的な矛盾なんです。アインシュタインの一般相対性理論(これは量子論じゃないです)と、粒子の量子物理学を組み合わせると、準古典重力理論というものができあがります。
これがホーキングの計算で使われた方法です。量子重力は含まれてません。というのも、それやと重力自体が量子的な性質を持つことになるからです。粒子だけやなくてね。言葉として紛らわしいのは分かりますが、量子と重力が付く全てのものが量子重力というわけやないんです。あなたとチューブが付いてる全てのものがユーチューブやないのと同じですわ。
ホーキングの計算では量子重力を使ってません。だって、その理論がまだないんですもん。理論物理学者でも、存在しない方程式で計算するのは難しいですからね。そやから準古典的なアプローチを使ったわけです。その計算によると、ブラックホールは放射を出して質量を失い、最終的には完全に消えてしまうことが分かります。
でもこのプロセスは不可逆的で、量子物理学と相容れないんです。これが矛盾なんです。量子物理学という仮定から始めて、一般相対性理論というもう一つの仮定を加えると、最初の仮定と矛盾する結果が出てくるわけです。自然法則の矛盾を解決することは、理論の発展において最も有効な方法で、だからこそこの問題がこれほど注目を集めてきたんです。
ただ、矛盾を解決する方法はいつも複数あるんです。これを理解するには、内部矛盾を持つ仮定の集合があった場合、矛盾がなくなるまで仮定を取り除いていけばええということだけ知っておけばええんです。そうする方法は沢山あって、物理学者はそれら全てを試してきました。
こんな風に考えてみましょか。結婚式で座席を割り当てる必要があるとします。でもアリおばさんはボブおじさんの隣には座れへんし、ジェイコブソン家は飲み物から離しておかなあかんし、女性一人を男性だけのテーブルに配置するわけにもいかへん、などなど。6週間考えた末に、全ての条件を満たす座席配置は存在しないことが正式に証明されたとします。そこで、問題が解決するまでゲストリストから人を外していくわけです。
これを実行する方法は沢山あって、もしかしたら結婚すること自体がそんなにええアイデアやなかったんちゃうかって思うようになるかもしれません。基本的に物理学者も矛盾に対してこんな風に対処するんです。計算のためのゲストリストから仮定を外していくわけです。ブラックホール放射に関して最も明らかな不要なゲストは、準古典重力で計算するのに十分やという考え方です。これは昔からずっと明らかやったと思います。
ただ、計算に使える量子重力理論がないもんやから、それについて言えることは何もなかったんです。ここで学術界の問題が出てきます。問題について言えることが何もないと、論文は出版できません。そこで物理学者は、準古典近似が有効である理由や、量子重力が必要ない理由を見つけ出して、この見かけの問題に対する「解決策」についてどんどん論文を書いていったんです。
これは意図的にやったわけやないんです。ただ、「悪い科学の自然選択」って適切に呼ばれてる現象です。論文を生み出せるトピックは有利なので、研究者の関心を引きつけるんです。ストリング理論やインフレーション理論でも同じことが起こりました。これらのアイデアは論文を書くのに適してるので、結果を生み出し、それが研究資金を生み、その資金でまた論文を書く人を雇える、というサイクルが続くわけです。
ブラックホールの情報喪失問題に対する解決策として、例えばブラックホールは残骸を残すとか、そもそもブラックホールは本当には形成されへんとか、ワームホールを作るとか、情報は外に出てくるとか、あるいは量子力学が間違ってるんちゃうかとか、色んな案が出されてきました。こういう解決策のリストは非常に長いです。数学的に間違ってるわけやないんです。
ほとんどは数学的には正しいんです。でも、物理的に実際に起こることを記述してるのはどれなんでしょう?それを知るには、実際に測定せなあきません。だって、これは数学やなくて科学なんですから。残念ながら、その測定はできへんのです。というのも、我々が知ってるブラックホールから出てくる放射は、あまりにも弱すぎるからです。
たとえ測定できたとしても、完全に放射で消えるまでに10の100乗年くらいかかります。10から100年やなくて、10の100乗年です。その頃には、私のAmazonの注文も届いてるかもしれませんな。明らかにこの実験は近い将来には実現できへん。実験する唯一の方法は、急速に崩壊する小さなブラックホールを見つけることです。これは一見バカげた話に聞こえるかもしれませんが、別のエピソードで話したばかりです。
さて、5分の動画を10分で要約しましたな。あと20回くらい2倍にしたら、ユーチューブが壊れるかもしれませんな。それはさておき、このコメントに答えさせてもらいます。「唯一の批判は『何の役にも立たへん』というコメントについてです。一見役立たへんように見える事実が、有用なアイデアの源になることは数え切れんほどありますよ」
これについて言うたのは、ブラックホールを作る方法がないので、それがどう崩壊するかを知ることには実用的な価値がないからです。たとえその知識があったとしても、それを使って何かできるわけやないんです。もしかしたら100万年後くらいには役立つかもしれません。
でも、今すぐ取り組む必要のある課題なんでしょうか?本当に?確かに、何の役にも立たへんって言うべきやなかったです。だって、誰が、あるいは何がそういった発見にインスピレーションを受けるか分からへんからです。でも、それって研究のハードルとしてはかなり低いと思いませんか?つまり、この動画だって、いつか有用なアイデアの源になる可能性はあるわけです。例えば、顔全体を覆わへんポップキラーとかどうでしょう。
こんなコメントもありました。「ブラックホールの情報パラドックスを解決しても自然について何も教えてくれへんというのは、ちょっと疑問です。極端な密度での物質の振る舞いが分かれば、ビッグバン以前の出来事についてもっと語れるようになるんちゃいますか?少なくとも哲学的には興味深いと思います」さて、これには三つ言いたいことがあります。
まず、この質問の出所は分かりますが、ブラックホールの情報パラドックスは極端な密度での物質の振る舞いに関する問題やないんです。数学的にもそれは関係ないんです。ちょっと考えてみてください。もしそれが関係あるんやったら、なぜ物理学者は崩壊する星の物質は何でできてるのか、その状態方程式はどうなってるのかについて、しょっちゅう話してないんでしょう?それは、情報が出てくるかどうかという問題には全く関係ないからです。これは全く別の問題なんです。
次に、ブラックホールの情報喪失パラドックスの解決策は既にいくつかありますが、それらは自然について何も教えてくれてません。
そして三つ目、これはロジャー・ペンローズがよく強調する点ですが、ブラックホール内部の特異点は、ビッグバンでの特異点とは全く異なるものなんです。
最後にもう一つのコメントに触れさせてもらいます。「ブラックホールの情報問題が実際に興味深く、注目に値すると思う理由の一つは、これが原理の対立やからです。量子場理論の最も深い法則が、一般相対性理論の基本的な結果によって破られてるんです。理論物理学における最大の進歩は、しばしばこのような原理の対立を解決することで生まれてきました。それは通常、自然に対する我々の理解におけるパラダイムシフトにつながってきたんです。
だから、この問題については多くの推測や誇張された宣伝があるにしても、実際の研究の範囲内では、まだかなり重要やと私は思います」
はい、確かに、原理の対立(私が矛盾と呼んだもの)を解決することは、理論発展において最も有望な方法です。歴史的に見ても、それは信じられないほど成功してきました。問題は、それを行う方法が常に複数存在することです。最終的には実験で決着をつけなあかんのです。そして実験ができへんなら、進歩はできへんのです。
ちなみに、これは量子重力についても同じ問題です。この矛盾を解決する方法は複数あって、最終的には実験で決めなあかんのです。だから私に関する限り、これらの実験的検証をどうやって行うかを考えることに焦点を当てるべきやと思います。
これが、ブラックホールの研究を諦めた後に私が取り組んだことですが、それはまた別の話で、また別の機会にお話しさせてもらいます。もう十分です、今日は何か有意義なことをして過ごしてください。
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